東日本大震災によせて




震災を乗り越え、新しい漁業を。
漁師 高橋芳喜さん



― 震災当時は何をされていましたか?

3月はちょうどわかめの最盛期でしたので、震災当日は海のすぐ近くの作業場でわかめの仕事をしていました。作業をしてた時に地震がきたので、慌てて大事なものを作業場から高台に移動させたり、家族を避難させたりしました。揺れが収まらないうちに大津波警報が出て、バタバタしているうちにあっという間に津波が来てしまったという印象ですね。

― 仕事の道具なども流されてしまったのでしょうか?

そうですね。うちは船だけでなく、作業場や家も流されました。しかし、小さい子ども達のことをまず先に優先させなきゃいけなかったので、漁師を辞めてでもとりあえず稼がないといけないなとは、震災のあったその日の夜から考えていました。

― 震災直後は避難所で生活されていたのですか?

幸い私達は親戚の家に避難させて頂けたので、避難所では過ごしていません。更にありがたいことに、その親戚がもう一軒空き家を持っていたので、2週間後くらいにそちらに住まわせてもらいました。

― 震災が起きてからお仕事の事情は変わりましたか?

そうですね。漁師って言っても自分のところは漁をするばかりではなく、むしろ養殖業がメインだったので、正直こんなに早く再開できるとは思いませんでした。震災直後には、先輩の漁師さんが「これは10年、20年かかる作業だぞ」って言われていたので、もしかしたら漁師を辞めなきゃいけないかなと感じました。

― 漁業を再開されたのは震災からどれくらいたってからですか?

震災からだいたい半年から7か月後くらいに、わかめの種はさみ作業ができるまでになりました。それまで養殖の場所作りをうちの親父がやってくれていたことが大きかったですね。その間私は、仙台に仕事にいったり、こちらのボランティア活動を行ったりしていました。

― 流されてしまった道具はどのようにご用意されたんですか?

船は隣の地区で漁師を辞めるっていう方がいたので、その人から譲ってもらいました。何かと金銭的にも厳しかったんですけど、道具や船がないことには何にもできせんからね。とりあえず道具の準備から始めました。

― ボランティアの活動は漁業をお休みされている間もされてたんですか?
はい。栃木に「JAPAN元気塾」という団体があるんですけど、その人たちが炊き出しに来られるということで、そのコーディネーターみたいな役割を任されていました。最初は、電話で「どこに何が足りない」という連絡をしていただけだったんですけど、その団体の人に「給料を出すので自分たちと一緒に活動しないか」とご提案を頂き、子供たちの無料塾の開講であったり、被災した人達の想いをつづった本の発行など、いろいろな活動を楽しくやらせていただきました。

― そういった活動は現在も継続しているのでしょうか?

今はもう「JAPAN元気塾」の一員としての活動は終わってるんですが、活動を通して繋がった方々との関係が強くて、支援物資が届いて、それを配布したりといった活動は継続しています。特に子ども達とはよく連絡を取っていて、受験の相談に乗ったりしています。先生というよりは近所のお兄ちゃんっていう感じで楽しくやってます。

― 震災前と同じ様に仕事をしていくことはできていますか?

そうですね、再開したとは言っても、3年経った現在でも全盛期の7割くらいしか復旧できていないので、今までのやり方だと厳しいんですよ。ですので、新たな取り組みも行っています。例えば、今まで販売は漁業販売組合が担当してたんですが、自分でも通信販売やネット販売などに力を入れ、ちょっとずつ変えていこうかなと思っています。皆さんに届けるまでのところまで、自分達でやっていきたいですね。

― 高橋さんの周りの漁師の方々は震災後に失業されたり、ビジネスのあり方を変えられた方は多いのでしょうか?

そうですね。もともとこの地区は若い漁師さんが多かったんですが、今は港の工事などの土木作業員が不足しているということので、漁師しながら土木作業員として働いている方もけっこういます。せっかく若手漁師さんなのにもったいないんですよ。後継者不足といわれる中で、跡を継いでいこうという想いの人達がいるのに、本業に専念できないのは本当にもったいないので、今後は若手漁師さんたち巻き込んで、新たな事業をやっていきたいなと思っています。

― 漁師さんとして、また、一市民として、地元の今後についてどのようにお考えですか?

とりあえず子供達には海=怖いものっていうのは思って欲しくないなと思っています。今回は津波で、これだけの被害もあったんですけど、食べるものだったり、収入だったり、私達の生活っていうのはやはり海からの恵みです。そういうことを交えて子ども達に伝えていきたいなと思っています。
あと、先ほども言ったように、ネット販売などにも力を入れているので、そういったものを通じて南三陸町のおいしいものを全国の人に知ってもらいたいです。

― 世間的に風化が叫ばれて久しいですが、実際感じられますか?

そうですね。自分なんかボランティアの受け入れからマッチングまで、漁業以外にもいろいろとやっていましたんで、1年経ったあたりから人数減ってきているなっていうのは感じていました。だからこそ、未だに根強くやって下さっている人達には感謝の気持ちでいっぱいです。
全国の方々には、やはりとりあえず一度でも現地に足を運んでもらいたいなっていう想いがあります。ここには、町の人達がいて、生活があってっていう現状を生で感じてもらうと、意識も変わるのかなと思います。そういう想いから、観光協会さんと手を組んで、とりあえず町に来てもらう活動にも力を入れています。

― 全国の方々に対して伝えたいことはありますか?

どんどん来て下さる人が減っている中で、少しでも興味や関心を持って来て下さることはすごくうれしく嬉しく思っていますし、今まで応援してくださった方々もすごい熱い人も多かったので、本当に感謝感謝一念それだけですね。これからも風化は避けられないとは思うんですが、ここでこうして生活している人達がいるんで、ちょっとでも心の片隅にでも置いといてもらえたら嬉しいです。

― 漁師さんとしてのやりがいはどういったところでしょうか?

養殖でも漁でも、ちょっとひと手間加えるだけで全然違った結果が出て来るのでそういった創意工夫で成功すると嬉しいです。うちは最近ネット販売に力を入れてますが、今までは組合に売って終わりだったものが、そこで終わらずに、お客さんとのやり取りできるのが新鮮で、すごく嬉しいです。消費者の方々の生の声っていうのは震災前はなかなか聞くことができなかったんです。Facebookや手紙などで、お客さんとより密接にやり取りしていく中で「美味しかったです」とか「こんなに新鮮なもの食べたことなかったです」とか、そういった声が何よりも励みになります。以前は通帳に残ったお金を見て終わりだっただけに、今は特にやりがい感じています。

― 消費者の立場からしても嬉しいですね。

そうですなんでしょうね。顔の見える付き合いと言いますか、より親密な販売を目指してやっていこうかと思っています。

― 高橋さんのお話を伺っていると、震災は非常に悲しい出来事ではありますが、その後のボランティア等で広がった人脈などが現在の生活に生きている様に感じますが、いかがでしょうか?

うちなんかは家も船も流されたんですけど、奪うだけじゃなくて残してったものもありますし、特に人脈などは実感しています。無くなったものを悔やむだけじゃなくて、とりあえずプラス思考で頑張ろうという想いは強いですね。皆さんとこうやって出会えたのは…言葉は悪いですけど、津波のおかげだと思っているので、そういったものは大事にしていきたいと思います。

― 南三陸町自体は復興に向かっていると感じられますか?

いろんな考え方や意見があると思うんですけど、町全体の産業というか港だったりそういったものはまだまだだと思います。しかし、住民の気持ちはどんどん前向きになって来ているように感じますので、これからだと思います。

― 南三陸町のメインの産業は漁業ですよね。高橋さんをはじめ、若手の漁師さんがこれからの未来に向けて、町全体を活性化していくような担い手になると思うのですが、そういった思いもありますか?

そういう風になれたらなと思っていますし、周りも活気付いていって欲しいです。震災前は一漁師でしたし、それぞれ個人プレーで他の漁師とも競争みたいな感覚が強かったです。あそこがいくらと獲ったので、こっちは何キロ獲らなきゃっていうようなライバル意識はあったんですけど、今ではもっと強い横の繋がりができました。現在では若手みんなで集まって、全体で一歩進めるようなやり方で進んで行きたいなと考えていますね。漁師はその人の技術だったり道具で差がつくんですけど、お互い助けられるところは助け合ってやっていけたらなと思います。自分だけが良ければいいのではなくて、若手漁師みんなで力を合わせて、それが町全体を盛り上げていけるような仕組みを作っていきたいです。




高橋 芳喜さん 33歳
南三陸町で漁業を営む傍ら、震災後にはJAPAN元気塾の宮城・南三陸の支部長、また同団体の東北復興サポートセンター「Hamanasu」のセンター長として、教育や書籍発行、産業復興等にも携わっている。

【リンク】
東北復興サポートセンター「Hamanasu」
書籍 南三陸町からの手紙






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